2023年、公害防止管理者の試験問題に変化が!今後の見通しは?

公害防止管理者試験

2023年の公害防止管理者試験を受験した方、お疲れさまでした。
私が受験したのは大気4種で、科目免除により「大気特論」のみの受験でした。

試験直前の本ブログ記事にもあげましたが、「大気特論」をはじめ
公害防止管理者試験は過去問プールからの出題が多く、大気特論ものその傾向が高いため
過去問の傾向を固め打ちすることで得点を積み重ねられました。
・・・2022年までなら、ね!

「大気特論」の試験が始まり、問題用紙をめくって、まず15問すべてに目を通して
どの程度が過去問ベースで固め打ちできるか、を確認しようとした私は
ページをめくるたび自分の目を疑い、最後には膝から崩れ落ちました。


嘘です。崩れ落ちるのは何とか堪えました。そして「例年と問題内容が全然違うじゃないか!」
と喉元まで出かけた叫びを飲み込み(試験室退場・不合格になるため)、天を仰ぎました。
その時目が合った試験監督員の方は、私の表情から何かを読み取ってくれたでしょうか…。

試験後、X(旧Twitter)で「公害防止」「大気特論」などのワードで検索すると
やはり多くの方が同じような印象を受けているようでした。
(検索では、「大気/水質総論」や「大規模大気特論」でも同じ印象を持たれた方が多いようでした)

私も試験後にいくつかこの件についてポストしましたが、
いつもより多めのリアクションをいただいたので、
改めて今回の試験問題の変化について、ここに至る経緯と今後の予想についてまとめてみました。

以下のような方は、是非読んでみてください。
特に「何でこんなに問題内容が変わったの?来年以降どうなるの?」について
一定の方向性は見えてくるのではないか、と考えています。

・今回の試験問題の変化に納得がいかない方。(合格者の方、おめでとうございます!)
・今回の試験問題の変化について、経緯と今後の方向性を把握したい方
・今後の試験勉強について、方向性が分からず困っている方

*なお、以上の前振りおよび以下の目次の内容については、私が受験した「大気特論」を前提にしており、
 各論の試験問題の今後の方向性に対し、どこまで強い相関がある話かは保証できません。
 が、最後までお読みいただければ「全体の傾向がどうなるか」は示唆されているとご理解いただけると思います。

はじめに

この記事を書いている2023年10月初旬現在、
まだ合格発表はされていませんが、問題と解答は公表されています。
この公表で面白いのが、以下の一文です。

(参考:一般社団法人 産業環境管理協会

試験問題に不備があり(例えば、選択肢のうち2つ以上が正解と取れてしまう記述だった等)、
ボツになる設問が稀に出るため、このような記載を添えての発表になっていると想定されます。

過去問からの出題が多い傾向だった公害防止管理者試験では、
このような但し書きのある解答掲載は、ここ数年記憶にありません。

つまり、今回このような但し書きがあるということは
「新規に出題した問題が多く、問題と解答選択肢の整合性が取れていない可能性が例年より高い」
と言うことを示唆していると推察できます。

ここからも、2023年の試験問題は、過去問プールからの出題が減り、逆に新規の出題問題が増えた
ということが明らかです。

私が受験した「大気特論」について言えば
・例年3~4問目に、2問出題されていたガス燃焼に関わる計算問題が、4問に増加。
 かつ、各計算内容が過去問の傾向にない新たな計算問題
 (内1問は純粋な計算問題ではないかも知れませんが。)
・例年11問目に出題されていた、排煙脱硝プロセスに関する問題が無くなる。
という2つが個人的な衝撃でした。特に後者は、10年以上続く定番の傾向で

冷静に試験を振り返って、特に今回の試験問題で頭を抱えてしまうポイントは
・試験の胴元である 一般社団法人 産業環境管理協会 が出版している
 過去問や関連技術/放棄をまとめた参考書(いわゆる”電話帳”)に未記載の設問が複数出た。
・過去問の傾向から変更した、新規の出題が全体の半分以上で性急すぎる方向転換だった。

という2点です。

しかし、実はこのような方向性になることは予想もできました。
嫌な予感が当たってしまった、とも言えます。

次に、その前触れについてまとめます。

試験内容変更へ向かう前触れ(2016年)

公害防止管理者の在り方については、
経済産業省内の委員会で定期的に議論されています。

以下は、その中の流れを順に追っていき、
今回の趣旨である「試験問題の内容変更」についてまとめたものです。

変化の起点から始めましょう。
2016年3月25日の 第4回 産業構造審議会 産業技術環境分科会 産業環境対策小委員会 にて
公害防止管理者制度について の議事がりますが、ここでは試験問題については特に言及がありません。

一方で、同じく経済産業省の政策に関するリリースのうち 公害防止管理に係る取組 では
平成28年(2016年)の調査報告書が公表されています。

こちらでは、試験問題について企業側にヒアリングした回答を載せています。
この中に、試験内容の変更を求めるようなコメントや、このままでよいというコメント
出てきていることが分かります。


(参考:経済産業省 平成28年3月 「企業における公害防止管理の在り方に関する調査」報告書
 *2つのキャプションいずれも抜粋したものに、関連箇所をハイライト

・公害防止管理者の在り方については、経産省の小委員会で数年おきに議論されている。
・2016年の段階から、既に問題内容の変更に関する議題が関連委員会には上がっていた。
・コメントの総数は、問題内容の変更を求めるものが多かった。

直近の動向(2021~2022年)

それから5年後の2021年2月8日の 第9回 産業構造審議会 産業技術環境分科会 産業環境対策小委員会 にて
公害防止管理者制度の今後の在り方について議事に上がり、ここで試験問題の見直しについて言及されます。
続く2022年3月7日にも同じ議題で議事に上がっており、同じ趣旨の提言が続きました。

このため、2023年以降の試験問題で、過去の傾向(過去問中心の出題)に対して

何らかの方向修正が入る可能性が懸念されました。(そして大気特論では、それが現実に)

具体的に2021年の資料から抜粋します。

アンケートした事業者のうち約25%が、公害防止管理者制度が役に立っているか?に対し
「どちらでもない・あまり役に立っていない・役に立っていない」との回答です。


その中の回答でも、「試験内容が実務と乖離している」という主旨の自由回答が目立ちます。


これを受け、 今後の試験問題の精査 が提言案に持ち込まれました。

(参考:経済産業省 公害防止管理者制度の今後の在り方
 *3つのキャプションいずれも抜粋したものに、関連箇所をハイライト

2021年の調査でも、問題内容変更の趣旨が引き続き議論され、
最終的に委員会の提言案にも盛り込まれた=実行に移る可能性が高くなった。

そして、2023年の試験問題がどうなったか?は冒頭で散々申し上げた通りの結果に…。

今後の見通し(2024年~)

令和4年(2023年)の調査報告書も、既に公表されています。
こちらではいくつか試験問題について、企業側からの回答を載せています。
ポイントは大きく2つあります。

1つ目のポイントは、問題変更の話題は変わらず挙げられている点です。
2016年の調査報告書でもあった主旨と変わらず、
実務に即した試験問題の精査については繰り返し言及されています。





また、事業者アンケートの自由記入欄からも、同様の趣旨の回答を抜粋します。

⑤国家試験・資格認定講習の内容の自由回答から、試験問題について言及している部分を抜粋

➢ 国家試験問題について改善すべき。基本事項が理解出来ていれば合格出来るレベルでよいと考え
 (必要以上に細かな内容の問題や微妙なひっかけ問題などは不要)
➢試験内容で実務とはあまり関係のない暗記問題が多すぎる。
 今時ネットで調べればわかる内容が多く記憶するより考え方を覚えたほうがよい。
 昔の共通一次試験のようです。実務に使える試験問題に改革が必要。
➢ 試験や認定講習の科目量、範囲が広すぎると感じる。
➢ 試験問題が引っ掛け問題が多く、資格取得の目的と乖離している。
➢ 国家試験内容について改善すべき。現在の試験問題は重箱の隅をつつくようなものが多い
➢ 国家試験の問題の難易度が高すぎではないか
➢ 国家試験、認定講習の学習対象範囲も広すぎるのでもっと絞れると良いとと思う。
必要な知識の範囲が広く、実際に自事業場にはあまり関係のない事項も多く、内容過多に感じます。
➢ 公害防止管理者の研修内容は幅が広く、実際に業務で使用する内容が少ない為、
 実際の業務に活かせる様な講習内容になっていればありがたい。




2つ目のポイントとして挙げられるのは、試験のCBT化の可能性です。

Computer Based Test の略で、ITパスポート試験のようなイメージです。

調査報告書の中で紙面を割いている議題として
受験の頻度が少ない、受験会場が少ない、という試験方法に関するものがあります。

これらの解決策のひとつにあがっているのがCBT化です。
そして、CBT化が今後進む場合に、試験問題がどう変わるかも想定されています。

CBT化すると同日一斉試験でなくなるため、
一定の試験問題プールの中から、ランダムに出題される形式となります。
そのため、現状の問題数よりもより多くの試験問題が必要となることが想定されています。

仮に近い将来、CBT化が実装されたことを想定します。
過去問プールの再利用性を高める必要性に言及されているため、
再び、2022年以前のように過去問復活が再利用される傾向が強くなる可能性もあります。

ただし、試験問題プールのキャパ自体が大きくなるため、
過去問の絞り込み難易度は、2022年以前よりも上がる可能性が高いです。


CBT化のネックは、試験頻度の増加と会場管理コストの増加や、
試験問題プールの拡充などの試験準備を行うためのコストアップです。

一方で、試験費用のアップに対して、受験会場・頻度が増える事で受講者側の負担減(旅費や宿泊費)により
結果的には相殺されるとの意見も出ているため、今後CBT化の方向に進む可能性が高いのでは、と推測します。


ただし、公害防止管理者試験の在り方に関する委員会や調査は5年程度のスパンで行われているため
具体的にCBT化の判断がされるのも、そのようなスパンでの対応と考えられます。
(コロナ禍の再来のようなインパクトが続けば別かもしれませんが)


(参考:経済産業省 令和4年3月「公害防止管理者制度の今後の在り方調査」報告書
 *5つのキャプションいずれも抜粋したものに、関連箇所をハイライト

・2024年以降も、問題内容が変更される可能性がある。
・試験のCBT化が具体的に検討されており、試験内容は更に変容する可能性もある。が、まだ少し先の話と推察される。
(過去問プール+新規問題である程度の量の問題プールを作り、そこから受験者ごとにランダム出題)

まとめ

2023年の公害防止管理者試験の、内容の変化について
以下の3つの流れでまとめました。

1.試験内容変更へ向かう前触れ(2016年)
  :2016年の時点で、試験内容変更の議題が上がっていた。
2.直近の動向(2021~2022年)
  :2021年の時点で、試験内容変更が提言されていた。
3.今後の見通し(2024年~)
  :今後も同じ傾向が続く可能性がある。試験内容のCBT化も具体的に検討が進む可能性が高い。

個人的に感じる一番のモヤモヤは
事業者アンケートで多かった「試験内容が実務に沿っていない」という趣旨のコメントに対し、
2023年の試験内容の変更は「実務内容から乖離した設問が、さらに増えた」
ということです。

2024年以降は、産業環境管理協会の出版する参考書と試験問題の関連性により注視が必要です。
もし2023年のように、主管団体の出版する参考書(”電話帳”)と問題に乖離が大きいようであれば
ある程度試験問題の傾向が読めるようになるまでは、受験を控えるのも一つの選択肢かも知れません。

ただし、その先には試験のCBT化も想定され、また問題内容が変化するタイミングも想定されます。
現時点では、その時期などは読み取れませんが、今後も経済産業省の小委員会の動きを追うことで
試験の方向性を、ある程度見通すことができるのではないかと思います。

委員会の資料では、いま日本が直面している高齢化・人手不足に対して
現場の公害防止管理の、クオリティとマンパワーをどう維持するか
が検討されており
いちプラントエンジニアとしても、委員会の資料の中身自体は非常に考えさせられるものがあります。
試験内容はさておき、受験した方・検討している方は一度目を通してみてはいかがでしょうか。

ただ、今年2023年の試験内容については、首をかしげるしかない。
というのが正直な感想です。

まぁ結局のことろ、自己採点で不合格だったから、悔し紛れに好き勝手言わせてもらったぜ!
ということでご容赦ください😓。今回は、この辺で筆を置こうと思います。

それではまた次回、⛑ご安全に!⛑


👇2024年度向けの公害防止大気・水質関係、胴元である産業環境管理協会の過去問
解説はこちらから!

マコト

産業系(食品加工/製鉄/特殊金属加工/電子部品/半導体)、化学系(化学製品/火力発電/バイオマス発電)、環境系(産廃処理/下水処理)など、多岐に渡る業界のプラントで、設計・施工管理・試運転・保守管理の業務全般を経験したプラントエンジニア。
様々な視点から、プラントエンジニアやプラント業界に関わる方にプラスとなる情報を発信したいと思います。

マコトをフォローする
スポンサーリンク
スポンサーリンク
公害防止管理者試験資格取得
マコトをフォローする

コメント

  1. aki より:

    今年、大気1種の特論を受験し跳ね返された者です。
    本当に愕然としました。
    このような資料を掲載いただき、ありがとうございます。
    早速、目を通させていただきます。
    燃焼速度計算(公式あり)、元素分析(これは電話帳にあり)などはエネルギー管理士(熱)の資料に詳しく載っています。
    因みにエネルギー管理士の何倍も難しい問題が出題されていたような気がします。
    本当に別次元の問題でしたね。
    他の資格でも同じような事態が発生しているようです。
    同じような思いをしましたのでコメントさせていただきました。

    • マコト マコト より:

      akiさん

      コメントありがとうございます!

      製造業関連で必要になる資格制度は、
      ・有資格者が多いベテラン層の退職
      ・人手不足(+製造業の新卒者への不人気)による
       若手有資格者との新陳代謝の不良
      が問題の根底ですね。後者を盛り上げていく業界全体の
      潮流が感じられないのが、悩ましいところです。

      記事で参考引用したように、以前から官民両サイドが危惧していた事態ではありますので、
      「有資格者の数と質の維持」→「資格試験の難易度調整=合格者数の調整」が各方面で始まったと捉えています。
      が、今回の公害防止に関しては、過渡期ゆえの迷走・・・?という印象です。

      今後うまく調整が入り、自分で自分の首を絞めるような制度設計とならない事を祈りつつ、
      いち受験者としては、文句をぐっと飲み込んで来年リベンジしたいと思います!(^^)/